抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用中の抜歯について
科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドラインより
– 血栓症(けっせんしょう)とは…
血栓症とは、血の固まりが血管を閉塞してしまうことにより、循環不全から臓器障害を引き起こす症状の総称です。血栓が肺にとぶと肺塞栓症(エコノミー症候群)となりますし、脳にとべば脳梗塞、心臓にとべば心筋梗塞を引き起こします。血栓症は血流、血液、血管のいずれかに異常によって引き起こされます。この異常が起こる理由について少しご説明します。
血流が原因となるもの
1つ目の血流とは、読んで字の如く血液の流れのことですが、主に下半身の血液が停滞することで血栓症ができると考えられています。いまでは耳慣れたエコノミー症候群などがこれにあたります。飛行機の移動などで長時間同じ姿勢をとっていることにより、血流が悪くなることによって血栓症を引き起こしてしまいます。
血液が原因となるもの
2つ目の血液とは、固まりやすいような血液の性質によって血栓が形成されます。高脂血症、糖尿病といった慢性疾患によって起こりやすいとされています。また、女性ホルモンをコントロールするピルも血液を凝固しやすくする成分が含まれるため、血栓を引き起こしやすくすることが知られています。
血管が原因となるもの
3つ目は血管です。動脈硬化によって血管が固くなってしまうと、血流が滞り血栓を形成しやすくなると考えられています。
– 血栓症の治療薬
血栓症の治療に用いる抗血栓薬には、血栓を形成しないようにする抗凝固薬と抗血小板薬のほか、形成された血栓を溶かす血栓溶解薬があります。この抗血栓薬を説明する際にわかりやすい言葉で「血液をサラサラにする薬」と言うことが多いですが、原因や目的によってお薬の作用や性質は大きく異なるのです。
抗凝固薬
ワーファリン®︎、プラザキサ®︎、イグザレルト®︎、エリキュース®︎、リクシアナ®︎ など
抗血小板薬
バイアスピリン®︎、バファリン81®︎、パナルジン®︎、チクロピン®︎、プラビックス®︎、ペルサンチン®︎、アンギナール®︎、プレタール®︎、エパデール®︎、アンプラーグ®︎、ロコルナール®︎、ドルナー®︎、プロサイリン®︎、オパルモン®︎、プロレナール®︎ など
血栓溶解薬
ウロキナーゼ など
– 抗血栓薬を服用中に抜歯はできるのか?
答えはYESです。
抗血栓薬を服用中の抜歯にあたって「服用を中断するか」という問題は、歯科、医科ともに長年の検討課題でした。少し前までは、抜歯の際に出血が止まらなかったら大変だろうと医科から服薬中断を指示されることが多かったのですが、抗血栓薬を中断することによって少なからず現病を悪化させるリスクが問題視され、全身的リスク回避を優先させて治療計画を立てる必要性が問われています。
日本循環器学会の「抗凝固・抗血小板療法のガイドライン」内には「ワルファリンや抗血小板療法継続下での抜歯が勧められる」と明記されています。
ワルファリンを中止すると約1%の頻度で重篤な血栓塞栓症を発症する。抗凝固療法を突然中止すると,リバウンド現象として一過性に凝固系が亢進し,血栓塞栓症を誘発する可能性が示唆されている。このリバウンド現象の有無に関しては異論もあるが,少なくともワルファリンを中止すれば,ワルファリン療法導入前に個々の患者が有していた凝固亢進状態が再現される可能性は高い。抗血栓薬継続下での抜歯の安全性はランダム化比較試験や観察研究として報告されている。我が国で行われた 複数の観察研究によると PT-INR 3.0 以下であればワルファリン療法継続下での抜歯も安全に行えたという。
抗凝固・抗血小板療法のガイドライン
もちろん全ての患者さまが抜歯可能ということではなく、医科対診による緊密な連携が必要になって参ります。詳細は担当の先生にご相談になってみてください。